履修登録の画面を開いたまま、どれを選んでも同じような気がして手が止まる。講義室の後ろの席から、まばらに埋まった座席をながめる。SNSを開けば、高校の同級生が第一志望のキャンパスで撮った写真を上げている——。

入学から数か月。周りは新しい生活に馴染みはじめているのに、自分だけがまだこの場所を受け入れられていない。そんな状態を、多くの人は「そのうち慣れる」と言います。

この記事では、その「そのうち慣れる」が本当なのかを、卒業間近の大学4年生に聞いた調査データで確かめます。そのうえで、つらさの正体を分解し、今の大学で解決できること環境を変えないと解決しないことを切り分けます。編入を勧める記事ではありません。判断材料をそろえる記事です。

この記事の要点

  • 就職先まで決まった大学4年生でも、45.3%が「受験をやり直せるなら別の大学を選ぶ」と答えている。4年経っても消えない人は珍しくない
  • ただし「同じ学部を選ぶ」は70.3%。不満が集中しているのは学ぶ分野ではなく「どこで学ぶか」のほう
  • つらさは環境・比較・将来不安の3つに分解できる。編入で解決するものと、しないものがある
  • 1〜2年生なら選択肢は多い。編入は落ちても在籍が続くため、退学や仮面浪人よりリスクが低い

「そのうち慣れる」は本当か

株式会社ディスコのキャリタスリサーチが、卒業間近の大学4年生に興味深い質問をしています。「もし大学受験をやり直せるとしたら、同じ大学・学部を選ぶか」という問いです。

対象は2022年3月卒業予定で、すでに就職先が決まっている学生822人。就活を終え、大学生活をひと通り走り切った人たちです。結果はこうでした。

やり直せるとしたら選ぶもの 割合
同じ大学・同じ学部 41.7%
他の大学・同じ系統の学部 28.6%
他の大学・別の系統の学部 16.7%
同じ大学・別の学部 9.0%
その他(海外留学など) 4.0%

出典:株式会社ディスコ キャリタスリサーチ「2022卒・就活経験者にきいた 大学進学に関する調査」。調査期間は2021年12月15〜24日、回答者822人。対象は2022年3月卒業予定で就職先を決定した学生。

「別の大学」を選ぶ回答を足し合わせると計45.3%。ほぼ真っ二つです。4年間を過ごし、就職先まで決まった段階でも、半数近くが「大学を選び直す」と答えています。

ここは正確に受け取ってください。同じ調査で大学への満足度の平均は78.3%と決して低くありません。入学後にギャップを「感じた」人も41.0%で、裏を返せば約6割はギャップを感じずに来ています。つまり慣れる人、馴染む人のほうが多数派なのは事実です。

それでも「やり直せるなら別の大学」が45.3%いる。この2つは矛盾しません。日々の生活には満足していても、選択そのものへの引っかかりは残り続ける——そういう状態がありうる、ということです。

慣れる人のほうが多い。それでも45.3%が残る

この2つの数字は、どちらも事実として受け取ってください。

「そのうち慣れる」は、2年次でも起きていない

もう一つ、より踏み込んだ研究があります。北海道教育大学の櫻井良祐・渡辺匠による「不本意入学は大学満足度を低下させるのか」(大学情報・機関調査研究集会論文集 第14回、2025年)です。

この研究は学部生482名を追跡した縦断調査で、しかも傾向スコアを用いて相関ではなく因果を検証しています。結論は明快で、不本意入学は2年次の大学満足度を有意に低下させることが確認されたというものでした。

ポイントは「2年次」という時点です。入学直後の一時的な落ち込みではなく、1年以上たった段階でも差が残っていることが示されています。「そのうち慣れる」という言葉は、少なくとも自動的に成り立つものではないわけです。

※この研究の対象は教員養成大学の学部生482名です。すべての大学・学部にそのまま当てはまるとは限りません。

ここが、今つらい人にとって大事な点だと思います。周りが順応していくほど、順応できない自分が異常に見えてくる。けれど数字の上では、引っかかりを抱えたまま卒業していく人は半数近くいて、その落ち込みは研究上も確認されています。この感覚は、あなたの気の持ちようや弱さから来ているわけではありません。

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

私自身、最初に入学した大学を4月のうちに辞めています。理由のひとつは、まさに周りの学生となんとなく合わなかったことでした。

ただ、正直に書いておきたいことがあります。どこへ行っても、最初の1か月はそんなものです。あのまま通い続けていたら、感じ方は変わっていた可能性のほうが高いと、いまは思っています。実際、地元の友達も、別の大学へ行った友達も、同じようなことを言っていました。環境が大きく変わった直後の、当たり前の感情だったのだと思います。

入学して数か月の時点でこの記事を読んでいるなら、この最後の部分は覚えておいてください。いま感じている違和感が、大学そのものへの評価なのか、環境が変わった直後の反応なのかは、その時点では区別がつきません。判断を急がなくていい理由が、ここにあります。

不満の在り処は「学部」ではなく「大学」

同じ調査には、もう一段深い数字があります。同じ質問を「学部」について集計したものです。

やり直せるとしたら 大学について 学部について
同じものを選ぶ 50.7% 70.3%
別のものを選ぶ 45.3% 25.7%

学部の満足度は、大学より20ポイント高い

学部については70.3%が「同じものを選ぶ」と答えています。大学の50.7%と比べて、20ポイント近く高い。

つまり多くの学生は、「何を学ぶか」の選択には納得している。引っかかっているのは「どこで学ぶか」のほうだ、ということです。

これは先ほどの内訳表にもはっきり出ていました。単独の選択肢として2番目に多いのが「他の大学の、同じ系統の学部」で28.6%。学ぶ分野は変えたくない、変えたいのは大学のほうだ——という人が、3割近くを占めています。この調査には自由記述も載っていて、そのうちの一つがこの層の感覚をよく表しています。

今の専攻に不満はないが、もっと上のレベルの大学で学んでみたいから。

(同調査「他の大学の同じ系統の学部を選ぶと思う」と答えた文系女子のコメント)

「学部はそのまま、大学だけ変えたい」に対応する制度がある

この構造は覚えておく価値があります。あなたのつらさが「経済学を選んだのが間違いだった」ではなく「経済学を学ぶ場所がここでよかったのか」にあるとします。それは調査上もっとも多いパターンです。

そして学部を変えずに大学だけを変える方法は、実際に存在します。それが後述する編入です。学部という軸を保ったまま、場所だけを変える。この記事の内訳表で28.6%が望んでいたことに、制度としてそのまま対応しています。


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【全国版】今の大学でいいのか不安な人へ|編入の始め方

つらさを3つに分解する

「不本意入学がつらい」とひとまとめに言っても、中身は人によってかなり違います。ここを分けないまま動くと、やることを間違えます。大きく3つに分けてみてください。

種類 具体的な中身 環境を変えると
① 環境そのもの 授業のレベルが物足りない/学ぶ気のない空気/設備やゼミの選択肢が少ない 解決しやすい
② 他人との比較 第一志望に受かった友人/SNS/親や親戚の反応 ある程度は変わる
③ 将来への不安 就職で不利になるのでは/このままでいいのか 条件つきで解決する

① 環境そのものへの不満

授業が物足りない、周囲に学ぶ気配がない、興味のある分野を扱う教員がいない。これは場所を変えれば実際に変わります。裏を返せば、今の場所にいる限り自力ではどうにもならない部分でもあります。ここが不満の中心なら、環境を変える手段を検討する価値は十分にあります。

ただし先に確認してほしいことがあります。その物足りなさは、大学全体に対するものですか。それとも今履修している授業に対するものですか。後者なら、次章のとおり今の大学の中でも動かせる余地があります。

② 他人との比較からくるつらさ

これが一番厄介です。比較の相手がいなくなるわけではないからです。仮に編入して大学を変えたとしても、次は編入先で「一般入試で入った同級生」と自分を比べる可能性があります。

ここははっきり書いておきます。学歴を上げれば比較の苦しさが消える、とは限りません。比較の基準そのものが上がっていくからです。この点を織り込まずに「大学名を変えれば楽になる」と考えて動くと、期待した結果にならないことがあります。学歴と引け目の関係については学歴コンプレックスは編入で解消できる|引け目の正体と対処法で詳しく扱いました。

③ 将来への不安

「この大学から行きたい業界に行けるのか」という不安。これは①②と違って、事実で確かめられる種類のものです。想像で不安を膨らませている場合と、実際に選択肢が狭い場合とで、打つ手がまったく変わります。

まずやるべきは、自分の大学の就職実績を実際に見ることです。大学ポートレートや大学公式の進路データで、想像を数字に置き換える。そのうえでまだ狭いと判断したなら、環境を変える理由になります。

今の大学のままでも変えられること

編入の情報を扱うメディアですが、先にこちらを書きます。今の大学にいたまま動かせる余地は、思っているより残っています。

ゼミ・研究室 2〜3年次のゼミ選択で環境は大きく変わる。学部全体が合わなくても、特定の研究室だけは水準が高いことは珍しくない
単位互換制度 他大学の授業を履修して単位にできる制度。大学間の協定次第だが、在籍したまま外の授業を受けられる
留学・派遣 交換留学の枠は、学内の競争率が低いことがある。環境を一時的に変える手段として現実的
資格・語学 TOEICや簿記など、大学名と切り離して評価される指標を積む。これは編入する場合にもそのまま使える

「大学が合わない」の中身が、実は「今の授業が合わない」かもしれない

とくにゼミは見落とされがちです。大学全体の雰囲気と、個別のゼミの雰囲気は別物です。「大学が合わない」と感じている中身が、実は「今受けている一般教養の授業が合わない」だけということもあります。1〜2年次は必修や教養科目が多く、その大学の専門教育をまだ体験していない段階だという点は、判断の前に一度考えてみてください。

ここに挙げたことは、編入と両立する

そして、ここに挙げた手段は編入と両立します。TOEICのスコアは編入試験の出願要件になっている大学が多く、今から積んでおけば、どちらの道を選んでも無駄になりません。

環境ごと変えるなら|編入という選択肢

そのうえで、環境そのものを変えたいという結論になったとき。退学でも仮面浪人でもない選択肢が大学編入です。

単位を持ったまま、3年生として合流する制度

3年次編入とは、いま在籍している大学を途中でやめて入り直すのではなく、これまでに積んだ単位を引き継いだ状態で、別の大学の3年生として合流する制度です。学ぶ分野はそのままに、場所だけを変えられる——先ほどのデータで不満がもっとも集中していた部分に、ちょうど対応する手段になります。

退学して再受験 仮面浪人 編入
失敗したときの状態 大学生の身分を失う 在籍は続くが1年を消費 在籍が続き、そのまま卒業できる
これまでの単位 原則ゼロから そのまま残る 編入先で認定されうる
卒業までの年数 増えることが多い 1年増える 条件が合えば増えない

落ちても現状が維持される

編入の最大の特徴は、落ちても現状が維持されることです。いまの大学に在籍したまま受験するので、不合格ならそのまま卒業に向かうだけ。しかも準備の過程で積んだTOEICのスコアや経済学の知識は手元に残ります。失敗したときに失うものが小さい挑戦だと言えます。

ただし、都合の悪い面もある

もちろん良いことばかりではありません。単位認定の結果によっては卒業が延びることがありますし、編入後は短い期間でゼミや就活に追いつく必要があります。「編入はやめとけ」と言われる理由にも、当たっている部分はあります。そのあたりは大学編入は「やめとけ」か|割に合う人・合わない人の分かれ目編入の単位認定の仕組みで、都合の悪い部分も含めて書きました。

仕組みそのものを知りたい場合は大学編入とは?仕組み・メリット・デメリットから、仮面浪人と迷っているなら仮面浪人と編入はどっち?をどうぞ。


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大学編入とは?仕組み・メリット・デメリットを解説

1〜2年生なら、時間があること自体が有利

いま1年生か2年生でこの記事を読んでいるなら、それ自体がかなり有利な状況です。

① いま単位を取ること自体が、出願資格の準備になっている

3年次編入の出願資格は、多くの大学で「2年以上在学し、一定の単位を修得していること」と定められています。必要な単位数は大学によって違います。

大学・学部 在学中から出願する場合の単位要件
名古屋大学 経済学部 56単位以上
関西大学 商学部 60単位以上
大阪大学 経済学部 70単位以上

※いずれも2027年度募集要項の記載。年度により変わるため、出願前に必ず各大学の公式要項で確認してください。

つまりいま普通に授業を受けて単位を取っていること自体が、そのまま出願資格の準備になっています。逆に言えば、ここで単位を落とし続けると、編入したくなったときに出願資格そのものが足りなくなります。今の大学がつらくても、単位だけは取っておいてください。これは編入を選ばなかった場合にも効きます。

② 英語は「試験本番より先に締切が来る」

そしてもう一つ、早く動くほど効くのが英語です。経済系の編入では、出願時に外部試験のスコア提出を求める大学が多く、スコアが基準に届いていないと出願すらできません。試験本番より先に締切が来る、という構造です。TOEICは公開テストが月1〜2回しかないため、思い立ってすぐ挽回できる科目でもありません。

詳しくは大学編入の英語対策|TOEICは何点必要かと、学年別の逆算をまとめた大学編入はいつから準備すべき?学年別スケジュールにあります。

③ 受け皿を具体名で見ておく

編入先の候補としては、経済・経営・商学系であれば国公立から私立まで受け皿があります。経済学部に編入できる大学一覧|国公立中心で全体像を見てください。そのうえで、たとえば神戸大学 経済学部名古屋大学 経済学部のように、個別の試験科目まで見ておくと現実味が出てきます。

辞めてもいい場合と、こだわるなら徹底すべき理由

最後に、実際に大学を辞めた経験があり、その後に編入した側からの見方を置いておきます。

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

辞めたほうが明らかにメリットが大きいときは、辞めてもいいと思っています。ほかに本気でやりたいことがある、浪人できるだけの家計の余裕がある、いじめのように環境そのものが有害である——そういう場合です。逆に言えば、そこまでの理由がないなら急いで結論を出す必要はありません。

そのうえで、大学名にこだわりたいなら、とことんこだわったほうがいいとも思います。学歴によって受けられる企業が実際に変わるからです。大学在学中というのは、学生同士でそこまで大きな差がつきにくい期間でもある。だからこそ入口の大学名が効いてしまう場面がある。

だから再挑戦したいならすればいいと思います。ただ、浪人するなら1年までにしたほうがいい。時間そのものがコストなので、そこは区切ったほうがいいです。

「浪人は1年まで」と編入の関係

この最後の一言が、編入という手段がどういうものかをよく表していると思います。浪人は「1年を賭ける」方法ですが、編入は今の大学に在籍したまま挑戦できるため、賭ける時間がありません。合格すればそのまま3年生として移り、不合格でもいまの大学の3年生を続けるだけです。

「学歴にこだわるならとことん」と「浪人は1年まで」を両立させようとすると、編入はかなり理にかなった選択になります。学歴で企業の選択肢が変わるという話の中身は学歴フィルターは編入で越えられる|仕組みと突破法で扱いました。

まとめ

この記事で確認したことを、もう一度並べます。

データが示すこと 就職先まで決まった4年生の45.3%が「別の大学を選ぶ」と回答。引っかかりを抱えたまま卒業する人は珍しくない
不満の在り処 学部への満足は70.3%。多くの人が引っかかっているのは学ぶ場所のほう
先にやること つらさを環境・比較・将来不安に分解する。比較からくるつらさは、環境を変えても残ることがある
今すぐできること 単位を落とさないTOEICを積む。どちらの道を選んでも無駄にならない

判断はあなたに委ねます。この記事は「編入すべきだ」と言うために書いたものではありません。45.3%という数字は、別の大学を選び直すべきだという意味ではなく、その気持ちを持っている人がそれだけいるという事実にすぎないからです。慣れていく人も、慣れないまま卒業して問題なく働いている人も、途中で環境を変えた人もいます。

最後に、ひとつだけ問いを置いておきます

いまのつらさは、あと2年たてば薄れる種類のものですか。それとも、環境そのものを変えないと消えない種類のものですか。

この問いに自分で答えを出すには、材料が要ります。編入という選択肢が実際どのくらい現実的なのか、いまの単位数と学年で間に合うのか、志望する分野の受け皿がどこにあるのか。そこを一度そろえてから決めても、遅くはありません。

この記事を書いている2人は、いずれも専門学校を経て国立大の経済学部へ編入しました。神戸大学と名古屋大学です。2人とも、いまのあなたと同じように「この場所でいいのか」を自分で決めなければならない時期を通っています。編入すると決める前の、そもそも自分に選択肢があるのかを確かめる段階からご相談いただけます(運営者プロフィールはこちら)。

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