「大学編入 メリット」で検索すると、だいたい同じ4つが並びます。学歴を上げられる、単位を引き継げる、試験科目が少ない、在籍したまま挑戦できる。デメリット欄も似ていて、情報が少ない、募集が年によって変わる、単位認定に上限がある。

どれも間違いではありません。ただ、並んでいるのは全部「制度の説明」です。読者が本当に知りたいのは、編入したあと自分の生活と進路が具体的にどう変わるのか。そしてそのために何を差し出すのか。そこのはずです。

そこでこの記事は、当メディアの運営者の一人が実際に編入して得たものと、代わりに手放したものを起点に書きます。読んだ本の冊数も、受けた会社の数も、そのまま出します。制度の一般論は、そのあとで最小限だけ添えます。

この記事の要点

  • 編入のメリットは、ほぼ全部しんどさとセットで来る。片方だけを取り出すことはできない
  • 環境が変わると、意志と関係なく自分の水準が動く。運営者は編入前に読書の習慣がなく、在学2年で約100冊読んだ
  • 編入の勉強は、そのまま就活で効く。運営者はES添削も面接練習もSPI対策もせず、受けた8社すべてを通過した
  • 差し出すのは大学生活の自由な時間。1・2年は受験勉強、3年で就活、4年になっても授業が残る

メリットとデメリットは、同じ事実の裏表になっている

先に結論を書きます。編入のメリットとデメリットは、別々に並んでいるものではありません。ひとつの変化が、いい面と悪い面の両方になって出てきます。

得るもの 同時に引き受けるもの
周りの学生の水準が上がり、自分も引き上げられる 変化の量が多く、それ自体がしんどい
勉強したことが、そのまま就活で効く 大学生活の2年間を勉強に使うことになる
落ちても、身についたものは残る 「本気でやっていれば」という条件がつく

よくあるメリット・デメリットの記事は、上の表の左側だけを4つ並べて「だから編入はおすすめです」と結びます。でも右側は左側とセットで来るもので、切り離せません。周りのレベルが上がるということは、ついていくのがしんどいということです。勉強したことが就活で効くのは、その2年間を勉強に使ったからです。

ですから編入は「メリットが多いから選ぶ」という決め方ができません。上の表の右側に書いたしんどさを引き受けてでも編入したいかで決まります。ここから、左側と右側を順番に見ていきます。

メリット①|周りが変わると、自分の水準も上がる

編入して一番効いたのは何かと運営者に聞くと、返ってくるのは学歴ではなく、周りにいる人の水準です。

授業の内容についていこうとする。会話に入っていこうとする。そのために、それまで読まなかった本を読み、ニュースを追うようになる。やる気を出したのではなく、その場にいるために必要だったから読んだという順序です。

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

編入する前の私に、読書の習慣はありませんでした。本を読んだことがなかったと言っていいくらいです。

それが名古屋大学にいた2年間で、100冊は読みました。ビジネス書が中心で、自己啓発やマーケティングの本が多かったと思います。日経新聞も読むようになりました。

意識が高くなったというより、飲みの席でも経済や政治や歴史の話になるんです。その場についていくために読むようになった、というのが正直なところです。

これは一人では作れません

編入がいちばん効くのは、ここだと考えています。

「今日から毎日本を読む」と決めても、たいていは続きません。意志の問題というより、読まなくても困らない場所にいるからです。逆に、周りが読んでいる場所にいると、読まないほうが困る。行動は意志より環境に強く引っ張られます。

そして自分がどんな会話の中にいるかは、自分では選べません。周りが決めます。いま所属している集団の話題の水準を、自分の努力で引き上げることはほぼ不可能です。だからこそ、いる場所そのものを変えることに意味があります。編入は、それを制度として認められたやり方でできます。

ひとつ注意を書いておくと、これは「名古屋大学だから起きた」という話ではありません。いまより学習する人の割合が高い場所に移れば、程度の差はあれ同じことが起きます。逆に言うと、大学名そのものが何かをしてくれるわけでもありません。効いているのは大学の名前ではなく、そこにいる人たちです。

そして、この2年間の変化が、次のメリットに直接つながります。

メリット②|就活の準備をしないまま、8社受けて全部通った

編入のメリットとして「就職に有利」はよく挙げられます。ただ、たいていは学歴フィルターの話で終わります。先にその部分を短く済ませておきます。

企業が学歴で何を見ているか

行きたい会社が大手や人気企業だと、応募の段階で候補から外されることがあります。実力を見てもらう前に、選考に進めません。

なぜ企業がそれをするのか。乱暴に言えば、学歴が「一定期間、自分で決めて勉強を続けた経験があるか」の目安として使われているからです。面接の数十分と提出書類だけで人を見分けるのは難しく、過去に努力を継続した記録が代わりに使われます。大学まで競技を続けた人が評価されやすいのも、おそらく同じ理由です。

この話は別記事で詳しく扱っているので、ここでは踏み込みません。


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学歴フィルターは編入で越えられる|「落とされる」形では見えない理由

学歴とは別に効いたもの

ここから先が、あまり書かれていない部分です。運営者の就活の実際を出します。

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

就活は8社ほど受けて、全部通りました。そのうち3社は途中で自分から辞退したので、最終的に内定をもらったのは5社です。

ただ、就活の準備らしい準備はしていません。ESの添削も、面接練習も、SPIの対策もしていない。やったのは自己分析くらいです。

その自己分析も、時間はかかりませんでした。大学に入ってから、いろんな人と経済や政治や歴史について語る機会に恵まれて、そのたびに自分についても考える機会をもらっていたんです。だから就活の時期に、あらためて掘り起こす作業にならなかった。

この話で重要なのは内定の数ではなく、準備をしていないのに通ったという部分の理由です。

就活で問われるのは、結局のところ人と話が通じるかどうかです。質問の意図を取り違えず、自分の考えを言葉にして返せるか。この能力は就活が始まってから2〜3か月で作れるものではありません。それまでの時間の使い方が、そのまま出ます。

前の章で見たとおり、編入後の2年間は本を読み、人と議論する時間になっていました。自己分析は「自分について考える初めての機会」ではなく、すでに何度も考えたことの整理で済んだ。だから短時間で終わった。準備をしなかったのではなく、2年間かけて準備が終わっていたと言うほうが正確だと思います。

もうひとつ、編入それ自体が話しやすい材料になります。周りが遊んでいる時期に、自分で決めて勉強し、試験を受けて合格した。これは「頑張りました」という抽象的な自己PRではなく、始まりと終わりがはっきりした具体的な行動です。編入の認知度が低いこともここでは有利に働きます。珍しい経路なので、そこから話が広がります。

ただし、これは運営者一人の経験です。業界も年次も違えば結果は変わります。「編入すれば就活がうまくいく」と読まないでください。言えるのは、編入の準備で使った時間が、就活の時期に別の形で戻ってくることがある、というところまでです。

なお、この「自分について考える」作業をどう進めるかは、編入の志望動機は就活にも影響するで掘り方を具体的にまとめました。

メリット③|一般入試より「逆転が効く」

最初に断っておきます。編入試験が簡単だという意味ではありません。

たとえば京都大学経済学部の編入では、令和7年度に志願11人に対して合格0人という年がありました。名古屋大学経済学部の募集人員は10名です。枠は小さく、出せば入れる試験ではありません。難易度そのものは別記事で扱っています。


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大学編入は難しい?倍率・合格率の実態と受かる人の共通点

そのうえで、一般入試とは競争の質が違います。違いは4つあります。

① 科目が少ないので、力を集中できる

経済・経営系の編入は、英語(多くは外部検定のスコア提出)+専門科目1〜2つ、という構成が中心です。一般入試のように5〜7科目を同時に仕上げる必要がありません。得意不得意の総和で決まる試験ではなく、少ない科目をどこまで深く仕上げたかで決まります。

② 一般入試ほど、受験する人が多くない

一般入試は同学年のほぼ全員が参加する競争です。編入試験の受験者はその一部にすぎません。競争相手の数も、顔ぶれも違います。

③ 日程が大学ごとに違うので、複数校に出せる

国公立の一般入試は前期・後期で受けられる大学が絞られますが、編入は大学ごとに試験日が独立しています。うまく組めば1年のうちに複数校を受けられます。ただし日程が重なる組み合わせもあるので、出願前の確認が必要です。


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編入試験に落ちたらどうなる?併願パターンと出願戦略【2027年度カレンダー】

④ そもそも、受けようとする人が少ない

編入という制度を名前だけは聞いたことがある、という人が大半です。しかも「編入試験は大変らしい」という印象だけが先行していて、実際に調べるところまで進む人は多くありません。認知度の低さが、そのまま競争相手の少なさになっています。

この認知度の低さは、統計にも表れています。文部科学省の学校基本調査が編入学者数として集計しているのは、短大・高専・専修学校などからの編入です。4年制大学から4年制大学への編入は、どの区分にも計上されていません。制度としては各大学の要項に出願資格が明記されているのに、人数が公表される仕組みになっていないわけです。

編入の人数がどこまで分かるかは、公的統計で分かること・分からないことで詳しく扱いました。

この4つをまとめると、編入は努力が点数に反映されやすい試験だと言えます。楽な道ではありませんが、いまの学力から逆転できる余地は一般入試より大きい。ここが編入という制度の設計上の利点です。

落ちたときに、何が残るか

編入のメリットとして「在籍したまま挑戦できるので、落ちても現状維持」という説明がよくされます。これは在籍状態の話としては正しいのですが、実態としては少し違うと考えています。落ちた場合でも、現状維持ではありません。

「落ちても損しない、というのは実感としても正しいか」を運営者に聞きました。

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

正しいとは思います。その時に本当にちゃんと勉強しているなら、日本語の理解力や言語化能力、そもそもの思考力が変わっているはずなので。

就活で話したときに、採用担当者が「この子はちゃんと会話ができるな」と分かってくれるはずです。

残るのはTOEICのスコアや専門知識だけではない、という話です。半年から1年、自分で決めた内容を自分のペースで詰めていくと、文章の読み方と考えの組み立て方が変わります。そしてそれは、前の章で見たとおり就活の面接で出ます。不合格でも、その部分は消えません。

ただし、この主張には条件がついています。「本当にちゃんと勉強しているなら」の部分です。出願だけして手を動かさなければ、当然ながら何も残りません。「落ちてもノーリスクだから、とりあえず受けてみる」という使い方をすると、この利点は消えます。編入は保険ではなく、勉強した分だけ返ってくるものだと考えたほうが実態に近いと思います。

デメリット①|最後のモラトリアムを、勉強に使うことになる

ここからが対価の話です。そして、おそらくこれが編入で一番大きなデメリットです。

3年次編入を選んだ場合、大学生活の時間割はこうなります。

時期 編入する場合 編入しない場合
1・2年 編入試験の勉強 授業・サークル・アルバイト
3年 編入先に入学。すぐ就活が始まる 就活の準備を始める
4年 授業がまだ残っていることが多い 卒業単位がほぼ揃い、時間ができる

本来なら、ゲームをして、友達と遊んで、サークルに顔を出して、4年間を過ごすこともできたはずです。その機会を自分から手放します。大学生活は多くの人にとって最後のモラトリアムなので、ここが一番きついという人は少なくないはずです。

なぜ4年生になっても授業が残るのか

「単位は引き継げるから大丈夫」と説明されることが多い部分ですが、引き継げる量は大学によって大きく違います。理由は制度の側にあります。

大学設置基準の第30条第4項には、入学前に修得した単位を認定できる上限が定められています。ただし条文にはこう書かれています。

前三項の規定により修得したものとみなし、又は与えることのできる単位数は、編入学、転学等の場合を除き(中略)合わせて六十単位を超えないものとする

通常の入学前既修得単位の認定には60単位という国の上限があります。ところが編入学だけが、その枠の外に置かれています。つまり編入の単位認定には全国共通の基準が存在せず、何単位認めるかは各大学が学則で個別に決めています。だから大学によって認定される単位数が大きく振れます。

認定が少ないと、その分を残りの2年で取り切らなければなりません。3年次で就活が動き出す時期に、履修が重い状態が重なる。これが「4年生になっても授業が残る」の中身です。

誤解のないように書いておくと、これは留年するという話ではありません。3年次編入は2年間で卒業できるように設計されています。ただ、一般の学生が4年生で時間に余裕を持ち始める時期に、編入生はまだ教室にいる、ということです。


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編入の単位認定の仕組み|何単位持っていける?留年しない?

デメリット②|変化が大きいこと自体が、しんどい

メリット①の裏側です。

周りの水準が上がれば自分も引き上げられる、と書きました。ただし引き上げられている最中はずっとしんどいです。ついていこうとしているから伸びるのであって、余裕を持って眺めている状態では何も起きません。

運営者に「編入して思ったほど変わらなかったことはあるか」と聞くと、返ってきたのは「ない。むしろ変化が大きいのでしんどさはある」でした。

ここは期待の持ち方に関わる部分なので、はっきり書いておきます。編入は「入れば楽になる」制度ではありません。いまの環境に居心地の悪さを感じていて、それを解消したいという動機だけだと、入ったあとに別の居心地の悪さが待っています。方向が違うだけで、負荷そのものは減りません。

しんどさの中身も変わります。編入前は「このままでいいのか」という漠然とした不安ですが、編入後は「周りに追いつけていない」という具体的な焦りになります。前者は考えても答えが出ませんが、後者は本を読めば少しずつ減っていく。同じしんどさでも、手の打ちようがあるという点は違います。

それでも負荷は負荷です。その負荷を「伸びている感覚」として受け取れる人にとっては払う価値のある対価になりますが、静かに過ごしたい人にとっては、ただの消耗になります。ここは向き不向きがはっきり出る部分です。

デメリット③|いまの友人と離れる可能性がある

見落とされがちですが、実際に効いてくる話です。

1・2年で仲良くなった友人と、物理的に離れます。社会人になると小中高の友人とは疎遠になっても、大学の友人とは会い続けるという人が多くいます。社会に出てからも続くはずだった関係を、自分の判断で手放す可能性があるということです。

ただし、運営者の場合はそうなりませんでした

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

私の場合は、1・2年のときの友人とも、編入してからの友人とも、いまだに交流があります。どちらかを選ぶ形にはなりませんでした。

編入してからずっと続く人間関係を作ることは、普通にできます。

離れたからといって、前の関係が自動的に切れるわけでもありません。ここは「そうなる」ではなく「そうなる可能性がある」として見ておくのが実態に近いと思います。

そしてもうひとつ、裏返しの話があります。いまの大学の人間関係に不満のほうが多いのなら、それは環境が合っていないというサインかもしれません。その場合、編入で失うものはもともと少ないです。このデメリットがどれくらい重いかは、人によってかなり違います。

編入したほうがいい人/もう少し考えてもいい人

ここまでのメリットとデメリットを、あなたが決められる形にまとめ直します。

状況 向き
いまの授業や、周りの会話に物足りなさがある 編入で変えられる部分が大きい
学びたい内容が、いまの学部では扱えない 大学を移す以外に方法がない
行きたい会社があり、そこが学歴を見る規模である 入口が変わる可能性がある
大学生活の2年を勉強に使うことに納得できる 対価を払える状態
大学生活そのものを楽しみたい気持ちのほうが強い 払う対価が大きすぎるかもしれない
行く理由がなく、漠然といまがしんどい 場所を変えても残る種類の悩みがある
志望校も学びたい分野も、まだ決まっていない 先に調べる段階

下の3つに当てはまる場合、編入をやめたほうがいいという意味ではありません。いま決める段階ではない、というだけです。特に「行く理由がない」タイプの悩みは、大学を移しても形を変えて残ることがあります。この点は別記事で詳しく整理しています。


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「大学選びに失敗した」と後悔している人へ|偏差値で選んだのは、あなたのミスではない

まとめ|2年を勉強に使う覚悟があるか

この記事で書いたことを、もう一度並べます。

メリット① 周りの水準が上がり、自分も引き上げられる(読書ゼロから2年で約100冊)
メリット② 勉強した時間が就活で戻ってくることがある(準備なしで8社通過・5社内定)
メリット③ 科目が少なく受験する人も少ないため、努力が点数に反映されやすい
デメリット① 大学生活の2年を勉強に使う。4年生になっても授業が残る
デメリット② 変化の量が多く、それ自体が負荷になる
デメリット③ いまの友人と離れる可能性がある(ただし必ずそうなるわけではない)

結局のところ、判断はひとつの問いに絞られます。4年間のうち2年を勉強に使う覚悟があるか。

ここに「はい」と答えられるなら、残りは志望校選びと日程の問題なので、あとは手を動かすだけです。答えられないなら、いま無理に決める必要はありません。迷っている状態のまま相談してもらってかまいません。むしろ、2年を勉強に使えるかどうかを一人で決めるのは難しいところです。

この記事のメリット・デメリットは一般論ではありません。専門学校から神戸大学・名古屋大学の経済学部へ編入した運営者2名が、実際に通った2年間から書いています運営者プロフィール)。得たものだけでなく、何を差し出したかも含めてお答えできます。

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