「なぜ編入したいのか、もっと深掘りしなさい」——編入の準備を始めると、必ずどこかで言われる言葉です。ところが、どうやって掘るのかを教えてくれる人はほとんどいません。過去を思い出そうとしても、出てくるのは「今の大学が合わない」「もっと上を目指したい」あたりで止まります。

止まる理由ははっきりしています。掘るという作業が、思い出すことだと誤解されているからです。実際にやるのは、昔のことを思い出す作業ではありません。「なぜ編入したいのか」という漠然とした質問を4つに分けて、一つずつ自分の答えを試していきます。この作業には、いま一つ有効な道具があります。生成AIを壁打ち相手にする方法です。ただし使い方を間違えると、志望理由書ごと壊れます。この記事では、掘る手順と、そのまま使えるプロンプト、そしてAIに絶対に渡してはいけない仕事を整理します。

この記事の要点

  • 志望動機が言葉にならないのは文章力の問題ではなく、「なぜ編入したいのか」という質問が漠然としているから
  • 4つに分けて一つずつ答える。掘っておくと2〜3年後の就活でも同じ話がそのまま使える
  • AIは質問をさせる相手であって、文章を書かせる相手ではない。代筆させると面接で答えが続かない
  • プロンプトには必ず「文章を書かないで」という指示を入れる。これが分かれ目になる

「深掘りしろ」が効かないのは、質問が漠然としているから

志望理由書が書けないと相談を受けるとき、原因が文章力にあることはほとんどありません。書けないのは、書く中身がまだ決まっていないからです。構成や例文の型を渡しても、そこに書く中身が決まっていなければ手は動きません。書き方や構成は大学編入の志望理由書の書き方で扱っているので、この記事では中身のほう、つまり「自分は何を書くのか」を決める作業を扱います。

そして中身が決まらない最大の理由は、「なぜ編入したいのか」という質問が漠然としすぎていることです。この形のまま自分に聞いても、答えようがありません。だから同じ場所をぐるぐる回って終わります。質問を4つに分けて、一つずつ答えていきます。

掘り方 出てくるもの 使えるか
過去を思い出す 「昔から興味があった」など、検証できない記憶 使いにくい
他人の例文を読む それらしい言い回し。自分が書く中身は増えない 使えない
2〜3年後の面接で通じるか試す その選択で何を捨てたか、2年後にどう説明するか 使える

掘るための4つの問い

「なぜ編入したいのか」と一度に考えても答えは出ません。4つに分けて、一つずつ答えます。どれも「昔のことを思い出す」ではなく「いまの自分の答えを試す」形になっています。次の章のプロンプトは、この4つをAIに聞いてもらうためのものです。

①その選択で、何を捨てるのか

編入すると、今の大学での2年間の人間関係、サークル、積み上げたものの一部を手放します。何を捨てるのかを具体的に書けると、その裏返しとして「それでも取りに行きたいもの」がはっきりします。捨てるものが何も思い浮かばないなら、まだ現状を直視できていない可能性があります。

②なぜ今なのか

大学院進学でも、卒業後の学び直しでも、資格取得でもなく、いま編入を選ぶ理由です。時期の理由が言えないと、面接でも就活でも「勢いで動いた人」に見えます。逆にここが言えると、計画性の説明を別途用意する必要がなくなります。

③短く、そのまま口で言えるか

面接官は、あなたの事情を知りません。専門用語や内輪の話を使わずに、30秒で通じる形になっているかを確かめます。長い説明が必要なら、まだ動機が一つに絞れていません。

④他人の言葉が混ざっていないか

「グローバルに活躍したい」「学びを深めたい」といった言葉が入っていたら、どこかで借りてきた可能性があります。自分が実際に見たり経験したりしたことだけで言い直せるかを試してください。言い直せない部分が、掘り足りない部分です。

掘った志望動機は、2〜3年後の就活でもそのまま使える

4つの問いに答えて志望動機を掘っておくと、その先でもう一度効いてきます。理由は単純で、編入の動機は2〜3年後にもう一度、他人から聞かれるからです。

編入生は就活で必ずと言っていいほど「なぜ編入したのか」を聞かれます。履歴書には前の大学も残るからです。裏を返せば、掘っておいた動機はそのまま就活の答えになります。さらに「学生時代に力を入れたこと」という定番の質問もあります。編入試験の準備に時間を注いだ人ほど、この2つは同じ話になります。

聞かれる場面 質問 答えの出どころ
編入試験 なぜこの大学で学びたいのか 志望理由書に書いた内容
2〜3年後の就活 なぜ編入したのか 同じ動機
2〜3年後の就活 学生時代に力を入れたことは何か 編入準備そのもの

つまり編入の志望動機は、書類のための一度きりの作文ではありません。その後2〜3年、繰り返し使い回すことになる説明です。就活のために編入するわけではありませんが、編入のときにちゃんと掘っておいた人は、同じ答えが二度使えます。ここで手を抜くと、後で全部作り直しです。

直野 史明直野 史明名古屋大学 経済学部 編入

正直に書くと、私は編入を決めた当時、就職活動のことまで考えて動機を組み立てたわけではありません。これは後から振り返って言えることです。

結果としては、自分の経験から編入の理由、研究テーマまでが一本につながっていたので、就活で「学生時代に力を入れたことは勉強です」と答えても説得力を持たせることができました。ただ、それは意図してそうしたのではなく、たまたま揃っていただけです。意識してやれば、もっと早く楽に固まったはずだと思っています。

この記事で就活の話を持ち出しているのは、成功例の再現をねらっているからではありません。やらなかった側の反省として、編入のときに掘っておいたほうが安いからです。編入前後の就活で実際に何が起きるかは学歴フィルターは編入で越えられるのほうで扱っています。

AIを壁打ち相手にする|渡していい仕事と、渡してはいけない仕事

この4つの問いを一人でやると、たいてい途中で止まります。自分の答えに対して自分で「なぜ」を重ねるのは、そもそも難しいからです。ここで生成AIが使えます。ただし、AIに質問をさせるのはいいが、文章を書かせてはいけない——この一線だけは最初に決めておいてください。

AIに渡していい 渡してはいけない
質問を出させる(面接官役をさせる) 志望理由書の文章を書かせる
抽象的な言葉を指摘させる 抽象語を具体語に「置き換えさせる」
弱点や矛盾を指摘させる エピソードを創作・補完させる
想定質問を並べさせる 大学の制度や要項を調べさせる

代筆させてはいけない理由は、文章の質ではありません。整った文章ほど、一段深く聞かれたときに答えが続かなくなるからです。AIが書いた一文には、あなたが実際に見たものが入っていません。面接で「これはどういう意味ですか」と一段掘られた瞬間、追加で出せる情報がなくなります。志望理由書の失敗はたいてい、文章ではなくこの深さの部分で起きます。

要項や試験科目をAIに調べさせるのも避けてください。募集の有無や科目構成は年度で変わりますし、生成AIは古い情報や存在しない制度をもっともらしく出力します。事実は必ず大学の公式の募集要項で確認する——ここは人間の仕事として残ります。

そのまま使えるプロンプト4つ

どれにも共通して「文章を書かないでください」という指示が入っています。これが入っているかどうかが、掘る道具になるか代筆機になるかの分かれ目です。角括弧の部分だけ自分の情報に置き換えて使ってください。

プロンプト①|質問だけをさせる

あなたは大学編入の面接官です。私の志望動機を深掘りするための質問だけをしてください。
・一度に1問だけ聞いてください
・私の回答には必ず「なぜ」または「具体的には」で1段掘り下げてください
・提案・要約・文章の作成は一切しないでください
・次の4つを必ず1問ずつ含めてください:①その選択で何を捨てるのか ②なぜ今なのか(大学院や資格ではない理由) ③専門用語を使わずに30秒で説明できるか ④借りてきた言葉が混ざっていないか
・10問終わったら、私の回答のうち具体性が足りない箇所だけを列挙してください
私の状況:[今の大学・学部/編入したい大学・学部/興味のあるテーマ]

1問ずつに限定するのが要点です。まとめて質問させると、答えやすいものだけ拾って浅いところで終わります。4つの観点を並べているのは、前の章で挙げた問いをAIに代わりに聞いてもらうためです。

プロンプト②|抽象語を炙り出す

以下は私が書いた編入の志望動機です。この文章に含まれる抽象的な言葉をすべて抜き出し、それぞれについて「具体的にするにはどんな経験・数字・固有名詞を足せばよいか」を質問の形で示してください。
書き直した文章は提示しないでください。私が自分で埋めます。
【志望動機】[ここに貼る]

「書き直しを出さないで」と明示しないと、たいてい勝手に清書された文章が返ってきます。それを使った時点で、自分の言葉ではなくなります。

プロンプト③|就活で通じるか試す

以下の編入の志望動機を読んだうえで、2〜3年後の就職活動の面接を想定してください。「なぜ編入したのですか」「学生時代に力を入れたことは何ですか」と聞かれたとき、この志望動機のままだとどこが弱く聞こえるかを指摘してください。
改善案は書かず、弱点の指摘だけをしてください。
【志望動機】[ここに貼る]

この記事の中心にあたるプロンプトです。編入試験の面接官と就活の面接官では、見ている時間の長さが違います。両方に耐える形になっているかを、書類を出す前に確認しておきます。

プロンプト④|反対の立場から崩させる

以下の志望動機に対して、否定的な立場から反論してください。次の2つの観点は必ず含めてください。
・それは今の大学のままでもできるのではないか
・その理由なら、他の大学でもよいのではないか
反論のあと、私が答えられそうにない質問を最後にリストにしてください。文章の修正案は不要です。
【志望動機】[ここに貼る]

この2つの観点は、編入の志望理由書がもっとも崩されやすい場所です。ここに答えられる状態になっていれば、書類の強度はかなり上がります。

AIの出力を、そのまま信じてはいけない部分

壁打ちが進むと、出力が自分の考えのように見えてきます。最後に3つだけ確認してください。

  • 事実はAIに任せない:募集の有無、試験科目、出願資格、日程は必ず公式の募集要項で確認する
  • 経験を作らせない:AIは足りない部分をもっともらしく埋めてきます。自分が実際に見ていないことは書かない
  • 通用するかは別問題:掘れた動機が編入試験で評価されるかどうかは、その分野と大学を知っている人でないと判定できません

最後の点だけは、AIでも自分でも埋まりません。志望校の候補出しから始める場合は経済学部に編入できる大学一覧で対象を絞り、そのうえで分かる人に見てもらうのが早いです。


次に読む
大学編入の志望理由書の書き方|構成・例文の作り方と添削のコツ

まとめ|掘れたかどうかを判定する3つの基準

作業をどこで終わりにするかの目安を置いておきます。次の3つを満たしたら、そこから先は文章の仕事です。

基準 確認の仕方
「なぜ」に3回答えられる 2回目で詰まるなら、テーマと志望校のつながりが空いている
2年後の面接で同じ話ができる 就活で使い回せない動機は、書類用に作った動機
AIが書いた文が1つも残っていない 残っていたら、そこが面接で崩れる箇所

掘る作業は地味ですが、ここで作ったものは編入試験のあとも2〜3年使えます。動機が固まっていない段階で書き始めても手が止まるだけなので、順番としては掘ってから書くで問題ありません。当メディアは専門学校から神戸大学・名古屋大学の経済学部へ編入した2名で運営しています。掘った動機がその大学で通用するかどうかの判断は、実際にその試験を受けた側のほうが早く出せます。

編入の無料相談を受け付けています

国公立の経済・経営系学部への編入を目指す方向けに、初回30分の無料相談1週間のLINE無料相談を実施しています。編入経験者が、今の状況に合わせて「何から始めればいいか」を一緒に整理します。

LINEで無料相談する